Iさんへ。
Iさん。
今日の昼間、突然お電話してしまい申し訳ありません。
夢を見たのです。夢の中で私は芝居を作っていました。Iさんと、なぜかピエール瀧を相手に稽古をつけておりました。この頃、2時間おきに目が覚め、眠る度に悪い夢をみます。Iさんと芝居を作っている夢は、久しぶりの寝覚めの良い夢でした。だから電話したくなって、してしまいました。
Iさんは、久しぶりの電話でもごくごく普通に応対してくれましたね。有り難かったです。
考えてみればIさんには世話になりっぱなしです。朗読劇というものがこの世にはあるんだよ、と教えてくれたのはIさんでした。学校という息苦しい場所でアップアップになっていた私にNPOの存在を教えてくれたのも、演劇表現という授業を創ったはいいが、何をやればいいかさっぱりわからず、今日が初めての授業という日の朝に通勤途中の車から電話をかけて教えを請うたのも、一宮スタジオを作ったときにスタジオに必要な音響・照明機材のリストを揃えてくれたのも、Iさんでした。こすっからい私は、Iさんから教えてもらったアイデアを、あるときは膨らませ、あるときは自分流にアレンジし、またあるときは丸パクリして、何とかインチキがバレずにここまでやってこれました。
Iさん、あなたは惜しみなく与える人です。私は随分、その恩恵を被ってきました。それに比べて私は、業が深く、強欲で人のものを奪ってばかりです。亡くなった父がまだ若かった頃の私に言ったことがありました。「オマエは欲しいものを手に入れるためなら何でもやる男だな」と。あの時の父の、ゾッとしたような声音と表情を、私は生涯忘れることはないでしょう。言挙げされた限りはそのような人間として生きて行かざるを得ません。「惜しみなく愛は奪う」(有島武郎)です。そんな私からしたら、Iさん、あなたは神様のような人に見えます。ディケンズの「クリスマス・キャロル」のスクルージみたいに悔い改めて、あなたみたいに与える人になれたらなあと憧れます。でもね、今さら処女面はできないんです。私はこのまま行けるところまで行く所存です。
そういえば、Iさん。あなたは役者さんとしても私の芝居の常連さんでしたね。愛嬌があって、ハートウォーミングで、でも芯の部分は利己的で冷たい人間を演じさせたら、あなたはピカイチでした。私の芝居は、いわゆる当て書きです。9割は役者が書かせてくれるんです。以前にこのブログにも登場してもらったSさんという女優さんがいます。彼女に当て書きするとき、私の心臓は暖かく打ちます。結果、書くものに若干の甘さが生じます。自分でもわかってはいるのですが、心臓の拍動は自律神経が支配しています。自分ではどうすることもできません。それに比べてIさん、あなたに当て書きをするとき、私の心臓は、思いっきり残酷に、思いっきり怜悧に鼓動を刻むんです。「帰郷」という芝居がいい例です。あれは、あなたが書かせてくれた芝居です。「帰郷」は今でも再演を望む声がたくさんあるんですよ。私にとっても会心の作です。再演、考えてみてください。

