中退

先週オレの学年で何人か退学した。
3年生のこの時期になって退学とは・・・。
もうちょっとの辛抱じゃねえか・・・何やってんだ・・・。

退学者が出るたびに、クラスの生徒に同じ話をする。
「高校卒業がすべてだなんて、オレは思っちゃいないよ。中卒でもパリっと働いているヤツ、いっぱい知ってるし。中退しても付き合いがあるヤツだっているし。
でもなあ、学校に意味なんてない、学校なんてクソみたいな場所だって、オレはどうしても思えないんだ。意味ない、クソだって思ってたら、何十年も教員って仕事を続けてないよ。
オレはね、オレ個人はね、高校出ることに、学校に通うことに意味があるってほうに、一票賭けてるんだよ。で、その賭けに勝とうとして、一生懸命頑張ってるんだけど。
高校卒業ってホント、むつかしいなあ。オマエら(ト、目の前にいる生徒に)頑張ってんだな。・・・頑張れよ。うん、頑張れよ」

・・・なんか変だ。納得できねえ。
全日制の高校じゃあ、毎日学校来るのも、卒業するのも、当たり前のことなんだ。なのに、何で、定時制の、ウチの学校の生徒には、こんなにも難しいことなんだ?
いや、難しい理由(わけ)はわかってるんだ。これだけ長く定時制に勤めてたら、さすがにわかる。
アタマでどれほどわかっても、どうしても納得できない。
なんでだ?なんで同じ高校生なのにこうも違うんだ?

コイツは絶対卒業まで持ってかなきゃダメだろ?って生徒が中退してしまうと、本当に辛い。
オレが、コイツは・・・と思うのは、自分で生きていかなきゃいけない環境に置かれてて、エネルギーが溢れてるヤツだ。こういうヤツが一番危ない。で、オレは、こういうヤツが結構好きときてる。
あのね、こういうヤツを抱えられないなら、定時制高校なんて、何の意味があるんだ?

オレ自身は全日制高校に通っていた。中退なんて、頭をよぎったこともなかった。高校は卒業するのが当たり前だった。高校生のオレは甘ちゃんだった。オレが甘ちゃんでなくなったのは、大学に6年通って辛酸をなめてからだ。早稲田大学ありがとう。おかげでつまらん人間にならずに済んだ。

『貧乏と、屈辱と、嘲笑と、そして明日の望みのなくなったときこそ、初めて我々は人生に触れるのだ』(山本周五郎)

オレのことを、すぐに生徒のクビを切るとか言うバカ教員がいるが、オマエらにオレの何がわかる?オレがどんな思いで、生徒に進退を考えさせているか、オマエら、わかるのか?
オマエら、一人っきりで狭いところに追い詰められたことあるか?追っ手がどんどん迫ってきて、もう逃げ場がない!って怖ろしさ、感じたことあるか?・・・オレは、あるよ。
教員なんざ、キョロキョロ周りを窺って、上手く周りに合わせてきたヤツばっかりだ。稀にそうじゃない教員はいるが(そしてそういう教員と出会ったとき、オレはひどく嬉しくなるのだが)、大半は、「はぐれた」ことのないヤツばっかりだ。
くだらねえ。ホント、くだらねえ。
戦々恐々として生きてきたヤツに、はぐれた者の矜持や心細さなんて、絶対にわかりっこない。

先週は本当に辛い1週間だった。