ビラまき

ビラまきをした。ウチの演劇部員5人といっしょに夕方の5時から尾張一宮駅前で「手紙」のビラを配ったのだ。1時間ちょいで190枚ほどのチラシが捌けた。オレも大学生の頃にビラやティッシュを配るアルバイトをしたが、道行く人はなかなか受け取ってくれない。そう考えたら、まあまあのペースで受け取ってもらえたんじゃないか。制服を着たいたいけな高校生が、夕暮れ迫る駅頭で「芝居やります。観に来てください」必死の形相でビラを配っている。受け取ってあげただけで、「ああ、今日は良いことをしたなあ」って気分になれるだろう。

オレ?オレはもう一人の顧問と事務局のK村と3人で様子を少し離れたところで見守っていた。サボってたわけじゃない。サングラスをかけて、全身黒づくめのオレが近寄って声かけた日にゃあ、スカウトのお兄さんみたいじゃないか?

最初は声を上げるのも遠慮がちだった部員たちも、終わり頃には自然とチームプレーまでできるようになった。終わってから感想を訊いたら「楽しかった」と5人は口を揃えて言った。(注 チームプレー:1人が渡そうと差し出す。が、簡単には受け取ってもらえない。少し離れたところに位置取りした部員がもう一度チラシを差し出す。すると不思議なことに、受け取ってもらえる確率がグンと上がるのだ)

「ほんまち商店街にスタジオがあるなんて知らなかった、って何人にも言われました」と帰りがけに部員が教えてくれた。一宮スタジオを始めて5年経つというのに、一宮市民にまったく認知されてないことを突きつけられた。情けないを通り越して、自分の発信力のなさが恥ずかしくなった。

ビラまきを終えてから、中日新聞の取材を受けた。「〝一宮ほんまち通り商店街を演劇の街に〟ステキですが、勝算はありますか」と記者さんに訊かれて、オレは即座に「ない」と答えた。同席したK村が、慌ててフォローしていろいろ言ってくれていたが、バカ言っちゃあいけねえ。一宮ってのは映画館すらひとつもない街なんだよ。〝ガチャマン〟とかいって、紡績産業が盛んな頃には5つも6つも映画館があったらしい。金に飽かして贅をこらした庭園を作るような趣味人もいたらしい。遊郭だって立派にあったらしい。が、今では名古屋のベッドタウンになりさがってしまっている。それが証拠に駅前を歩く市民の早足なことと言ったら!職場と家の往復以外に余裕も興味もなさそうな足取りにオレには見えた。勝算なんてあるわけない。

だが、オレはやると決めた。持てる精力と能力をつぎ込んで「一宮ほんまち通り商店街を演劇の街にする」と決めたのだ。自慢じゃないが、オレは勝算があって物事始めたことなんて、これまで一遍たりともない。それでもなんとかなってきた。オレのなかのリトル・オレが「やれ。できたら奇跡だよ。やるなら今しかねえぞ」とオレをけしかけている。だからやるのだ。