ブーフーウーの老後(1)
ブーフーウーは三匹の子豚でした。
子豚はやがて大人豚になりました。ブーは大企業に勤めました。フーは公務員になりました。ウーは大工さんになって棟梁と呼ばれるようになりました。結婚もして子ども生まれ、幾春秋も過ごしました。それなりに忙しく、振り返ればあっという間の豚生でした。
やがて3匹は老いて、仕事をリタイアしました。定年を迎えたのです。企業戦士のブー、公務員のフー、棟梁のウーから、ただのブーフーウーに戻りました。「~の」が取れて見ると、やることもなければ、自分がいていい場所もないことに三匹は愕然としました。金がたんまりあれば好きなことができるのにとも思いましたが、実際にはようやく食べて行けるだけのわずかな年金しかありませんでした。どうやって日をやり過ごせばいいのだろう・・・。三匹は頭を抱えました。
ブーは趣味に打ち込むことにしました。ブーの趣味はテニスでした。この際だから贅沢は言わない。誰とでもいい、太陽のもと、いっしょに楽しくラリーを打ち合いたい。そうして、からだを動かした後の心地よい疲れに身を任せて、お昼寝なんぞ楽しんでみたい。これこそが輝ける老後!残業するのが当たり前だった現役の頃ではなしえなかった悦楽!ブーはテニスウェアを新調しました。純白のウェアが輝ける老後を祝福しているように思えました。ブーは毎日テニスコートに出かけるようになりました。しかし、リタイアした老豚にいつも付き合えるほど、現役世代は暇ではありません。はじめの頃は優しい気持ちで相手をしてくれていたテニス仲間も徐々にブーを避けるようになりました。いつもいつもコートにいて、打ち合う相手を物欲しそうに探している老豚。ケガでもさせたら大変だから、こっちが気を遣って打ってやらなきゃいけない面倒くさい老豚。そのくせ蘊蓄をたれて、自分のことばかり喋りたがる老豚。テニスコートに集う動物たちは、ブーのことをそんなふうに見ていたのでした。ブーだって馬鹿ではありません。自分に対する周囲の気配はわかります。ブーの足は次第にテニスコートから遠ざかるようになりました。「ま、仕方ない」ブーは自分の部屋で、独り言ちました。「日の光に一日当たっているだけでも疲れちゃうんだから、無理しない方がいいさ」ブーは自分の部屋に閉じこもるようになりました。純白のままのテニスウェアはタンスの中に仕舞い込まれたままになりました。(つづく)