卒業式
3月1日は卒業式だった。オレが学年主任として手を掛けてきた4年生が卒業した。
ウチの学校は昼間定時制高校で、2年生から6時間授業を受ければ3年間で卒業することができる。でもオレは、4時間授業を4年間受けて、定時制本来の形の“4年卒業”をしたほうが絶対いいという確信を持っている。それは随分長く定時制に勤めて得た確信だ。
今年卒業した4年生は、コロナの大流行の年、6月まで学校が休校だった年に入学した生徒だ。忘れもしない、1年生の8月。オレの一存で夏休みだというのに学年集会を開いた。場所は体育館だった。真夏の体育館は地獄だ。灼熱地獄だ。運の悪いことに、その日は特に暑い日だった。からだから噴き出した汗があっという間に蒸発して乾いてしまうような日だった。オレは舞台袖でペットボトルの水を頭からかぶってから保護者と生徒の前に立った。そして力の限りしゃべった。あっという間に口の中がカラカラになった。水をガブガブ飲みながらオレは訴え続けた。絶対4卒(4年卒業)の方がいい、騙されたと思って4卒を選んでくれ、オレは最後までちゃんと面倒を見るから、と。
今年卒業したのは、あの日、地獄の暑さを共に味わった生徒、保護者なのだ。そしてオレの訴えに応じて、4年卒業を選んでくれた生徒、保護者なのだ。あの日オレは心に決めたのだ。オレの言葉に応じて4卒を選んでくれた生徒たちには、絶対に損をさせてはならんと。卒業する時に「4卒にして本当に良かった」と思ってもらうんだと。そのために、オレは持てる力を尽くして生徒と向き合うのだと。この4年間、オレはその思いを一日たりとも忘れたことはない。ムチャクチャ恥ずかしいが一回だけ書く。この4年間、オレはきちんと学校の先生だった。やれることは全部やった。日々心を砕き、時間を惜しまず働き、自分で喰っていけるようになってくれと念じて、進路指導にも力を尽くした。オレはムキなって教育活動に邁進した。誰に命じられたわけでもない。オレは約束を果たしたかったのだ。あの灼熱の体育館で生徒や保護者と交わした約束を。
採用試験に受かれば先生という職には就ける(採用試験に受かっていない講師の先生も、ものすごく増えてきた)。でも、先生になるのはそれとは別だ。オレは今年の4卒生徒たちのおかげで、このトシになって、ようやく“先生になる“という経験ができた。感謝しないといけないのはオレの方だ。
卒業式が終わった後、卒業生や保護者と写真を撮った。手がかかった生徒ほど、いっしょに写真を撮ってくれ、と言ってきてくれた。オレ、結構キツい対応したのになあと不思議に思いながら、でも喜んでオレは写真に納まった。
4年生のみんな、卒業おめでとう。よく頑張った。偉かったぞ。自分で喰ってけるようになれ。そして幸せになれ。人間は、幸せになるために生まれてきたんだから。