豊田青推協「リベ国」遠征授業

5時ピタで学校を出て、200円払って、衣浦豊田道路に乗った。開始1時間前には会場に着いた。

すでにK村は着いていた。車の中にいた。

窓ガラスをトントンすると、K村は車から降りてきた。

「おう」オレは挨拶する。K村は無言で頷く。K村とは長い付き合いだ。いつもだって、そんなにはベラベラとしゃべらない。

でも、今日はいつもと少し違う。オレが1時間前に会場に着くことなどあり得ないし、K村はいつもより・・・なんか表情がある。

二人とも緊張してるのか。オレは思った。

K村はこの4月、豊田青推協の会長になった。今日はその第1回目の研修会なのだ。K村はその講師にオレを選んでくれた。

K村には、ここに書くのをはばかられるくらい世話になっている。

世話になった人間に恥をかかせるわけにはいかない。

絶対に、だ。

参加者が三々五々集まってくる。会場に入ってくる様子を見ていると、みな表情が硬い。

そりゃあ、そうだろう。

今日の研修会は19時スタートだ。参加者は、一日の労働のあと、遠くは稲武からやってくる。豊田の各地区代表者とはいえ、誰が好きこんでこんな時間からの研修会に参加する?しかも、みんな、ほぼ初対面らしい。

疲労、緊張、警戒、あふれ出す義務感・・・。表情が硬くなるのも当たり前だ。

K村から依頼されたミッションは、「参加者同士を仲良くすること」だった。

オレはお調子者だから、いつもどおりホイホイと引き受けた。

参加予定者は80名。30代から70代まで。男女比は7:3・・・「楽勝だよ、そんなの。任しとき」オレはたしかにそう答えた。

が、入ってくる各地区代表者の顔を見て、「今日はやばいかも」という思いが頭をかすめた。

開始まで、少し間がある。オレは一人、会館裏の路上までタバコを吸いに行った。

夜の気配が忍び寄ってはきているものの、空はまだ明るく、吹く風は心地よかった。すぐ脇の高架を電車が走り去ってゆく。電車の速度が遅いせいか、吊革につかまる乗客の表情まで、はっきりと見えた。

彼らから、オレはどう見えているのだろうか。

会場に戻ると、すぐに研修会が始まった。紹介され、登壇する。

80名の硬い表情が一斉にオレを見た。

オレはサングラスの奥で、グッとにらみ返した。80対1。目を逸らしたら負けだ。

1時間半のWSはあっという間に過ぎた。何をやったかは鮮明に覚えている。でも、どうやったかははっきりした記憶がない。

オレの中の〝リトル・オレ〟がやってくれたんだ。〝リトル・オレ〟とは、オレの中に眠っている無意識のことだ。

意識して、計算尽くでやれることなど、たかが知れてるんだよ。

終わったときには会場の空気が変わっていた。万雷の拍手を受け、オレは降壇した。

帰り道、K村から電話が入った。お礼の電話だった。

長い付き合いだが、K村の、あんなホッとした声は聞いたことがない。涙ぐんでいるようなしゃべり方だった。

K村さんさ、アンタ、ものすごい緊張してたんだなあ。良かったじゃん、アンタは今日、勝負に勝ったよ、きっと。

オレはさ、電話のアンタの声聞いて、初めてアンタに、これまでの恩返しができたような気がしたよ。