清水讃
女優の清水万鳳さんが、しばらくのあいだ演劇活動を休止いたします。
こんなに悲しいお知らせを皆さんにしなければならない日が来るとは、思ってもみませんでした。
・・・ウソを言いました。
心のどこかでわかっておりました。わかっていながら決して口には出さず、いつか来るこの日をひたすら怯えて過ごしておりました。
「わたしの20代は、演劇がすべてでした」
清水さんは私に言いました。
清水さんの言を俟つまでもなく、10年という歳月を、清水さんと私はともに駆け抜けてまいりました。
私は清水さんを舞台の上でキラキラと輝かせるために、身を削るようにして作品を書き、演出をしました。
清水さんは私の思いを受け止め、厳しい稽古に耐えて、観客の心を鷲掴みにする舞台を現出してくれました。
強い感情表現をするとき、彼女は殊に魅力的でした。
舞台の上の彼女の一挙一動を、私は愛しておりました。
彼女ほど演出家に食ってかかる役者を私は知りません。
彼女ほど稽古中に笑い、涙し、感情を露わにする役者を私は知りません。
そうして彼女ほど、本番の舞台の上で「ここに生きている人間がいる!」と感じさせてくれる役者を私は知りません。
「た・す・け・て」、「笑ってよゲロ子ちゃん殉情編」、「帰郷」、「月の光」・・・
清水さんという存在が私に書かせてくれた作品の数々です。10年間、清水さんは私のミューズでありました。
清水さん。どうぞ、ゆっくり休んで、人生の新たなステージに向かっていってください。
芝居なんて、作品を創るなんて、本来はキ○○イの所業です。業の深い、真っ当でない、何かが欠けている、もしくは何か過剰なものを抱え込んでいるカ○ワのやることです。
この頃とみにそう思います。そう思わせてくれる人間と出会い、出会ったことで、私の中のキ○○イ、カ○ワがむくむくと目を覚ましたのです。
清水さんは良識も常識もある、素敵なお嬢さんです。よく10年間、芝居なんぞというヤ○ザな所業につきあってくださいました。改めてお礼を言わせてください。
「長い間、献身的につきあってくれてありがとう。ムチャクチャ楽しかったぞ」
清水さん、見ててくださいね。私、きちんとやりきりますから。自分の業の深さを全うしますから。やりきったその時は、清水さん、手放しで褒めてくださいね。