乗り打ち
日曜日に大阪で芝居をやった。大雪で行けるかどうか危ぶまれた。関ヶ原あたりに差し掛かったら、あれ、ホワイトアウトっていうのか?ものすごい吹雪で、車窓の外は一面真っ白でなんにも見えないんだ。新幹線に乗っているのが怖くなったよ。そんな雪の中でも、速度落としているものの、新幹線は普通に走ってた。すごいもんだよ。道は、東名や名神はおろか、名阪国道までも通行止めになってるというのにさ。新幹線、すごい。文明の利器だよ。
演劇部員3人を引率して、刈谷東高校演劇部として、新春高校演劇感謝祭ってのに呼んでもらって出場したんだ。送られてきたチラシみたら、岡山や徳島の高校も参加するみたいだった(調べたら全部全国大会に出場した強豪校ばっかりだった。ま、オレも3回全国大会には出てるんだけど)。今回、ウチの学校は「乗り打ち」せざるを得なかった。オレも長く高校演劇の顧問をやってるが、「乗り打ち」は初めてだった。「乗り打ち」ってのは、劇場に到着したその日に公演の本番を行うこと。演劇や舞台の世界の専門用語だ。仕込んで、リハやって、本番の公演やって、バラして、車に道具を積み込んで、そのまま帰る。忙しいったらありゃあしない。ホールの大きさや設備は、予め図面で教えてもらってたけど、図面じゃあうまく想像できないんだ(少なくともオレは想像できない)。行ってみて、自分の目で見て、小屋(劇場のことね)に合わせて演出を変えることになる。役者は急に飛んでくる演出の変更に瞬時にアジャストしていくしかない。オレ個人は、「乗り打ち」は、緊張感が漲って、アドレナリンがドバドバ出て、創る歓びがこみ上げてくるんだけど、役者はさぞ大変だったろう。え?何で「乗り打ち」したのかって?そんなの決まってるじゃん。生徒3人、顧問3人を前日に宿泊させるだけの金が学校にないからだよ。交通費だって学校に出させるの、随分と大変だったんだから。オレは芝居がやれりゃあ自腹でも行くんだが、そこまでの無理を生徒にさせることはできない。ウチの生徒、金、あんましないからね。で、やむを得ず「乗り打ち」になったってわけだ。
芝居の出来?今回は「便所くん~卒業~」って芝居を持ってったんだ。演出はだいぶ変えたけど、基本は一昨年の愛知県大会で上演した芝居だ。愛知県大会で上演したときは悲惨だったね。男性便器が舞台に登場した瞬間に観客が笑い出しやがったんだ。悲しくて緊張感が昂っているシーンなんだよ。そこで男性便器を見ただけで、大笑いしやがったんだよ、愛知県の客は。芝居ぶち壊しさ。なんで笑えるの?男性便器の何がそんなにおかしいの?オレ、いまでもあんときのお客の反応は恨みに思ってるんだ。でも、日曜の大阪の客は違ったよ。クスリとも笑わなかった。ちゃんと悲しみと緊張感が舞台から客席に伝わってた。オレ、音響席で観てたんだけど、そのシーンの客席の反応が気になってたから、わざわざ立ち上がって身を乗り出して確認したから間違いないよ。大阪のお客さんは、きちんと芝居のテイストを理解して、メッセージを受け取ってくれてたよ。やっぱ大阪は文化的だなあって思ったね。愛知県より理解度が格段に高いって思った。興行的な問題なんだろうけど、ほら、「名古屋飛ばし」ってこのごろ耳にしない?コンサートや芝居の全国公演で、東京でやって、名古屋をすっ飛ばして、大阪に行っちゃうって、あれだよ。やっぱ、文化度が低いんじゃないか、中部は。オレ、今回の公演で、それを肌で実感したね。
文化度の高さはイベントの運営の仕方にも如実に表れていたね。大阪の今回のイベント、運営してる人がサービス精神旺盛で、運営している人たちがものすごく楽しそうにやってるんだ。イベントの運営って神経使って、時間も長く拘束されて、そりゃあ大変なんだよ。でもそんなのおくびにも出さないで、ホント、みんな楽しそうに運営してたんだ。オレ、その点にまず、ものすごく感動したね。しかもだ、来場してくれた人を楽しませるために、受付に福引きまで用意されててさ。オレも引いてみた。オレは参加賞のうまい棒しか当たらなかったけど、ウチの学校の顧問は特賞を引き当てちゃってね、芝居で使った衣装(なんかドレスみたいなものだった)を持って帰ったよ。引き当てたって使い道がないから結局困るんだけど、それでも、福引きを用意するって気持ちが嬉しいじゃない?愛知県で演劇の大会をやると、ホントに機械的で、義務感でやってますって感じで、会場に入ってもちっとも楽しくないんだ。やっぱり吉本興業の街だよ、大阪は。ウチの学校みたく、「乗り打ち」する学校にも親切にしてくれてね、スタッフワークも完璧だった。至れり尽くせりでね、気持ちよく上演させてもらったよ。こんなふうによくしてもらうと、なんかでお返ししなきゃって気持ちに自然となっちゃうよ。
夜遅く家になんとか帰り着いてから「あ!」って思った。「しまった!」って思った。オレ、愛知の手土産、持ってくの忘れてたんだ。雪が心配で、ホントに辿り着けるのかってことで頭がいっぱいで、そこまで気が回らなかったんだよ。あんなに気持ちよく上演させてもらっちゃうと、手土産持っていき忘れたことが痛恨に思えてくるよ。
結論。「乗り打ち」は止した方がいい。疲れが半端ないから。

