芝居はF1だ
日曜日、高校演劇の西三河地区の大会で、刈谷東高校演劇部は「便所くん~卒業~」を上演した。各校40分以内、という時間制限があるので前半部分しか上演できなかった。役者はすべてのセリフを怒鳴って言う演出にした。役者2人がメインの芝居なのだが、普段から基礎トレを怠っているせいか、体力がまるでない。息を吸って吐ききる。吐く息にセリフを載せる。出し惜しみせずに全部吐ききる。そんな単純なことがまるでできない。酸欠になって歩けなくなる。とんでもねえヤワな役者どもだ。でも倒れられちゃ困るし、手当だけはしとかないといけないと思って、舞台袖には車椅子と登山用の酸素ボンベを用意しといてやった。やったよ、役者は40分。全力で、セリフを全部怒鳴って。内容もなにもありゃあしない。相手に向かって全力で向かってゆく。必死で声を届ける。それだけを客に見てもらおうと思ったんだ。なぜか。他の学校の芝居が、ごめん、言葉を選ばずに言うとしょぼいからだよ。せめてウチくらいは、人と人とのぶつかり合いを見せようと思ったんだ。あとは、人が人を求める気持ちの激しさや切なさを表現したかったって意図も、実はあったんだけどね。
オレ、芝居はF1だと思ってる。グルグル同じコース回ってるだけのサーキットであれだけ多くの観客が熱狂するのは、リミッターぶっちぎって200キロで走ってるからだよ。50キロで安全走行してるヤツ、だれが何時間も見ていられる?他の学校の芝居は、全部50キロの安全運転なんだ。そんなのつまんないよ。役者が限界超えようとしている姿が、200キロで走っている姿が、観客の胸を打つんだよ。
今日(月曜日)、学校で反省会をやった。「どうだ、もう懲り懲りか?」と訊くと、「また、やりたい気持ちはある」と役者の一人は答えてくれた。「はい、やりたいです」と爽やかに言えない気持ちはわかる。だって、芝居やってる最中、本当にシンドそうだったもん。「でもな」とオレは言った。「オレ、オマエらの演技見てウルウルしちゃったぞ。オレがウルウルするなんて滅多にないことなんだぞ」って。恥ずかしいけど、オレ、ホントにウルっときちゃったんだよ。人が守りに入らずに、余力を1ミリも残さずに燃焼しきろうとしている姿は、やっぱり感動するんだよ。
芝居は、役者を見せるもんだ。酸素ボンベを使わないと息が吸えなくなるまで頑張った2人の役者に再認識させてもらった。オレの芝居をやれる役者が、リミッターを外して200キロで走れる役者が2人誕生した。良い上演だった。

