岩波から本が出たよ、親父。

修学旅行に行って帰ってきた。トシから考えて、これが学年主任として行く最後の修学旅行だろう。1日目の夜に、学年の先生と生徒がサプライズでお祝いしてくれた。かつてオレは、その年にちょうど退職になる先生が学年にいれば、修学旅行で必ずサプライズお祝いをしてきた。まさか自分がされる立場になろうとは!・・・人間、生きてりゃトシを取るんだな、やっぱり。

こっ恥ずかしいが50パーセント。有難くて泣きそうになるが20パーセント。もうこれで修学旅行の企画ができないのか、もっとやりたいなという未練が20パーセント。そして残り10パーセント、心の中に沸々と湧いてきたのは決意だった。これまでずっと目にしてきたジジイどもみたく、好々爺のフリしたり、ボケたフリして生き延びるという戦略を、オレは絶対に採らないぞという決意だった。人間て一遍にいろんな気持ちが湧いてくるもんなんだ。オレ、プレゼントもらったとき、どんな顔になってたんだろ?

修学旅行のドサクサに紛れて『帰郷』の余韻がすっかり消えてしまった。そして修学旅行の余韻に浸ることも許されず、昨日からまた別の芝居の稽古に入っている。11月2日~4日、石川県の金沢市民芸術村で「百万石演劇大合戦」という演劇フェスティバルが開催される。CAワークスが全国各地の劇団の中から参加団体として選ばれたのだ。演目は『月の光』を予定している。オヤジの遺品の中にあった手紙を元にして作った、ノンフィクションの一人芝居だ。

てなわけで、この土日も全然休みじゃない。手帳を繰ってみた。9月10月、土日で休んだのはたった1日だけだった。すげえなオレ。どんなスケジュールだよ。こんなスケジュールをこなしてりゃ、好々爺のフリも、ボケたフリもしてられないやね。

オヤジつながりでもう一言。岩波書店から本が出せた。『コミュニケーションの準備体操』というタイトルだ。すげえなオレ。一体いつ書いたんだ?

10月16日に発売になっている。中学生向けのシリーズだから読みやすいよ。表紙のイラストもかわいいし。このブログを読んでいる人、まだ買ってないなら、是非買って、読んでみてくれ。オレが普段、どんな授業やワークショップをやっているか、よくわかるからさ。

オレのオヤジは、岩波書店の信者だった。オヤジはものすごい読書家、蔵書家だった。オヤジの部屋は、壁面すべてが作り付けの本棚になってた。その中に『世界』って雑誌のバックナンバーをはじめとして、岩波書店の出版物がずらりと並んでた。幼いオレが一番最初に覚えた出版社名は岩波書店だった。

給料もボーナスも、演劇鑑賞会の活動と、自分の服と、そして本に使っちまうオヤジだった。昭和ひとケタ生まれで、戦後は教員の組合活動と労演運動に身を捧げたオヤジだった。インテリ左翼って感じだった。岩波書店はオヤジのあこがれだったんだと思う。オレはこれで本を出すのは3冊目になる。自分の本がでると毎回嬉しいが、今回はまた格別だ。岩波だぞ、岩波。オヤジが生きてたらどんなに喜ぶだろうって。

・・・ほら、また間に合わなかった。高校演劇の全国大会出場も、演劇のスタジオも、岩波の本も、オレは、オヤジになんも見せられなかった。オヤジはオレが35のとき、死んじまったから。

オヤジを喜ばせたかったんだけどな。オヤジに褒めてもらいたかったんだけどな。『友彦、よう頑張ったな』ってさ。