目かくしウォーキング
今は9月の終わりがけだから、クラスがスタートしてから大体5ヶ月になる。不思議なもので5ヶ月も経つと〝クラスの色〟がはっきりしてくる。「目かくしウォーキング」をやると、それが露骨に顕れる。
「目かくしウォーキング」は、2人ひと組の片方が目かくしをして学校中を歩き回ってみようというレッスンだ。目かくししていない方が声かけをして誘導するのだ。
クラスAは、5ヶ月経ってもいまだにおっかなびっくり相手に声かけしていた。決まった友だち以外は、普段からあんまり係わらないようにして過ごしているんだろうという感じだ。クラスBは、明るく楽しいのが一番、ノリが良いのが一番という感じで、人を人として大事に扱ってくれなかった。うんと離れた後方にいて「右行って!」「左行って!」と指示を出す。そんなに離れていたら、目かくししている相手の足下にある段差など見えやしない。目かくしした相方は当然のようにあっちこっちにぶつかっている。それでも誘導してる方は平気で笑っているのだ。オレが驚いたのは、ぶつけられた方もヘラヘラ笑っていたことだ。オレがそんな誘導でぶつけらようもんなら、「テメエ、なにやってんだ!ちゃんとやれや!」と間違いなく激怒する。なんでぶつけられて笑えるんだ?ものすごい違和感があった。きっと普段からそういう雰囲気なんだろうな。ノリが良いのが一番、元気が良いのが一番、そんな深く考えちゃダメだって。楽しけりゃいいじゃん・・・。そんな空気が、普段の教室に満ちてるんだろうな。ヤな感じだ。
で、オレのクラスはというと、安心して見てられる感じだったよ。声かけの仕方が柔らかくってね、目かくししている相手のすぐ傍に寄り添って誘導していて、どのペアもしっとりした感じで歩いていたな。「安心」っていう言葉がピッタリくるような、そんな「目かくしウォーキング」だった。自分のクラスだから欲目で言ってるんじゃないよ。T2で組んでいる非常勤の先生も「見ていてホンワカした気分になった」と言っていたからね。
おっかなびっくり指示を出しているクラスも、ノリだけで笑いながら誘導してるクラスも、授業やってるオレとしては心配で心配であちこち歩き回ってしまう。ぶつけてないか、水たまりに突っ込んで滑って転んでないか、途中で全力疾走させるときに停めてある車に自分からぶつかって行ってないか・・・。水曜日は4時間も「目かくしウォーキング」やったから、何周学校中を歩き回ったか知れやしない。でも、木曜日にやった自分のクラスの授業では、オレは前日とは打って変わって、無闇と歩き回ることもしないで、遠くまで見晴らせる2階の渡り廊下で全体をぼんやりと眺めていただけだった。久しぶりによく晴れた日だったから日差しと風が気持ちよくてね、結構幸せな気分になったよ。授業やって、こんな気分になるなんて滅多にないことだよ。
集団の雰囲気って、どうやって形成されるんだろう?わずか5ヶ月で、どうしてこんな違いができてしまうんだろう?
特にオレのクラスは不思議だよ。オレは生徒にベタベタするのが嫌いでね、若い頃からずっと言われてきたよ。「先生(オレのことだ)は生徒との距離が基本、遠いね」なんて。でもね、60過ぎたジジイに猫なで声でベタベタされたら、16~18歳の高校生は気持ち悪いんじゃなかろうか?オレが生徒だったら気持ち悪いよ。
いろんなタイプの先生がいる。生徒の私生活を全部把握したがる先生、自分のクラスの生徒は自分のものだくらいに囲い込んでしまう先生・・・。オレが生徒だったら、そういう先生は死ぬほど嫌いだ。オレは自分がされてイヤなことは絶対にやらないでおこうと心に決めて、今まで教員をやってきた。だからオレはクラスのことは基本放置だ。もちろん担任だから、言わなきゃならないことはキチンと言う。でも、基本は放置。なのにどうしてあんなに互いをちゃんと人間扱いして、大事に声かけできるクラスになったんだろう。
「目かくしウォーキング」は、個々の在りようだけでなく、その集団の持つ空気感も炙り出してしまう、ある種怖ろしいレッスンだ。

